Milindaの書斎

読んだこと、考えたことなどを書き留めます。外国語はたまに。

読みました 20


上原善広『石の虚塔』を読みました。世を騒がせた旧石器捏造事件についての本です。


この本の特徴は、事件を「点」ではなく「線」で捉えようとしていることだと思います。
つまり捏造事件や藤村新一だけに注目するのではなく、前史も含めて振り返ろうとしているのです。

本書の記述を私なりに整理すると以下のようになります。第○期という区分も私が勝手に設けたものです。


【第1期】

  • 岩宿遺跡から出た石器が学術的に認められる(1949年)。日本列島にも旧石器時代があったと分かる。
  • 岩宿発見の中心人物は杉原荘介、芹沢長介、相澤忠洋の3人。杉原と芹沢は明治大学の所属、そして相澤はアマチュア発掘家だった。

→「旧帝大に対する新興の明治大学」「プロの学者に対するアマチュア」という構図。特に相澤忠洋は立志伝中の人として人気に。

【第2期】

  • 杉原と芹沢は不仲になっていく。芹沢は東北大学に移る(1963年)。
  • 東北大における芹沢は外様であり肩身が狭い。功績をあげて周囲に認められる必要があった。
  • 味方が少ない芹沢はアマチュア考古学者と積極的に連携する。差別せずに扱ってくれる先生としてアマチュアの間では評判だった。
  • 芹沢は「前期旧石器時代」が日本にあったことを立証しようとする。しかし、学界ではなかなか認めてもらえなかった(1975年ごろまで)。

→そもそも前期旧石器は非常に原始的なものであり、自然の石と区別しづらい。区別するためには「形」の分析ノウハウを積み上げるべきだが(型式学)、その手法が未熟であった。

【第3期】

  • "ゴッドハンド"藤村新一の登場。座散乱木遺跡で4万年以上前のものとされる石器を発見(1981年)。以後、芹沢の学説を証明するような発見を次々に成し遂げる。最終的には50万年前の石器を見つけたと主張するに至った。

→芹沢の名誉のためいっておくと、芹沢が藤村に捏造を指示したというわけではないようだ。

  • 捏造の発覚(2000年)。スクープしたのは毎日新聞だが、取材班に助言していたのは藤村と同じアマチュア考古学者の竹岡俊樹だった。
  • マチュアといっても竹岡は明治大学の出身であり、最初に出てきた杉原荘介の教えを受けている。さらにフランスで考古学を学んだ経験もあり、型式学に精通していた。

→藤村が発掘した石器の中には本物もあった、と竹岡はいう。日本の考古学界に型式学のノウハウがあれば、捏造された石器と本物の石器を選別することができた。そうすれば考古学が「最初からやり直し」になることもなかったのに、とのこと。


もうお分かりと思いますが、出来事を線で見た場合「主人公」に当たるのは芹沢長介だといっていいでしょう。おそらく著者もそのつもりで書いているはずです*1
藤村新一は第3期になって出てくる新キャラに過ぎません。ただし物語の結末に関わる重要キャラではありますが…。

今日において「点」の情報はネット検索でいくらでも手に入りますが、「線」で物事を見るのは簡単なことではありません。そのことを再認識させてくれる本だったと思います。
(著者の主観がどこまで入っているか、という点には注意する必要があるにせよ)


*1:表紙の2人は芹沢長介と相澤忠洋。