Milindaの書斎

母国語と外国語を行ったり来たりしながら、自分なりに「書くこと」を追求したいと思います。

国語 4 記述問題の解き方について②


講師:では実際に問題を解きながら考えてみるかのぅ。次の文章を読んでみよ。表記や送り仮名などがほんの少しだけ今とは違うが、まあ読めるじゃろ。

 両手で頭を抱いて目を瞑った。すると帰宅の途中と①同じい雑念が湧き上って留め度がない。天井には鼠が暴れまわって、時々チュッチュッと鳴声がする。一家四人はすやすやと眠っているが、毎夜その寝息を聞くぐらい彼れにとって厭な気のすることはない。人中へ出てる時には②心が動揺して紛れているが、独り黙念と静かな部屋に坐っていると、心が自分の一身の上に凝り固まって、その日常の行為の下らないこと、将来の頼むに足らぬこと、仮面を脱いだ自己がまざまざと浮び、終には自分の肉体までも醜く浅間しく思われて溜らなくなる。その時こんな下らない人間を手頼りにしている家族の寝息が忍びやかに聞えると、急に憐れに心細く、果ては萎れてしまう。
 健次は昨夜と同じ考えを経験し、心細くなって萎れて、遂にぶっ倒れて、睡る気ではなくても自然に眠ってしまう。
 ③雨滴は同じ音を繰り返し、ネズミも倦みもせずに騒いでいる。

正宗白鳥『何処へ』より
※ただし中村明『名文』からの孫引きである。


講師:さて、ここで「太字になっている部分の意味を説明しなさい」という設問があるとする。お主ならどう答える? 字数は自由でよいぞ。

生徒:「昨夜と同じ考え」? じゃあそれが書いてある箇所を抜き出して……って昨日のことなんて書いてないじゃん! ふざけんな! クソだこんな問題!

講師:昨夜の考えと同じなのはいつの考えじゃ?

生徒:えーと……今夜?

講師:うむ。今夜と昨夜が同じなんじゃ。「毎夜その寝息を聞くぐらい〜」から「果ては萎れてしまう」までは、今夜に限らず繰り返された出来事の記述なのかもしれんがの。いずれにせよ、その辺りを要約すればよいじゃろうな。

生徒:そっか。この健次ってやつが落ち込んでいることは何となく分かるから、あとは俺様の才能溢れる芸術的な文章でそれを表現して……

講師:記述問題はそういうものではないと言うたじゃろ。まず鍵になりそうな部分を抜き出せぃ。頭の中だけでやるなりラインを引くなり、方法は人それぞれじゃろうがな。

生徒:鍵になりそうな部分……落ち込んでいることの表現だから……「心が自分の一身の上に凝り固まって」とか?

講師:そこはあまり重要ではないな。凝り固まった結果どうなる? その結果のほうが大事じゃろうな。

生徒:じゃあ「自分の肉体までも醜く浅間しく思われて溜らなくなる」?

講師:うむ。そこが鍵の1つじゃな。「浅間しく」というのは④浅間山荘事件とは関係ないぞ。

生徒:何だよそれ?

講師:まあ、それは置いといてじゃ。健次は何について考えていたら「自分の肉体までも醜く浅間しく思われて溜らなく」なったのかのぅ?

生徒:え、そんなこと書いてある?

講師:「終には自分の肉体までも〜」とあるのぅ。「終には」ということは、そこに至るまでに何を考えておったかというと?

生徒:「仮面を脱いだ自己」がどうしたとか?

講師:他には?

生徒:「将来の頼むに足らぬこと」?

講師:うむ。その前の「その日常の行為の下らないこと」も入れていいじゃろう。一旦まとめておくと、こんな感じになるわけじゃ。

〈健次は何について考えていたか〉

  • 日常の下らないこと
  • 将来への不安
  • 自分が大した人物ではないこと(仮面を脱いだ自己)

 ↓

〈結果〉

  • 自分の肉体までも醜く浅ましく思われてたまらなくなる


生徒:じゃあ、これをまとめればいいんだな。

講師:うむ。ただ、鍵になりそうな箇所がまだあるからのぅ。もう一度よく文章を見てみると?

生徒:まだあるのかよ。えーと……「急に憐れに心細く、果ては萎れてしまう」?

講師:そこじゃな。そして心細くなったのは何がきっかけかというと?

生徒:「こんな下らない人間を手頼りにしている家族の寝息が忍びやかに聞え」たから?

講師:うむ。家族を養うことにプレッシャーがあったのじゃろうな。時代背景も今とは違うじゃろうし。ともかく、これも健次が考えていたことや結果に含める必要があるじゃろう。メモしておくぞ。


〈健次は何について考えていたか〉

  • 日常の下らないこと
  • 将来への不安
  • 自分が大した人物ではないこと(仮面を脱いだ自己)
  • 家族を養うことの重圧

 ↓

〈結果〉

  • 自分の肉体までも醜く浅ましく思われてたまらなくなる
  • 急に憐れに心細く、果ては萎れてしまう


講師:まあ、あとはこれをまとめればよいじゃろう。テニヲハがおかしくなければ点をもらえるはずじゃ。前回に言った「星をつないで星座にする」とはこういうことじゃな。

生徒:えー、でもなんか、めんどくさくね? 1問解くためにいちいちこんな風に準備するの?

講師:今回は最初だから1問をゆっくりとやったが、慣れればもっと早くできる。やり方も人それぞれじゃからアレンジすればよい。実際に問題用紙の余白にメモを取ってもよいし、頭の中でできるならそれでもよい。とりあえず、メモからこの問題の答案を作ってみよ。

生徒:よーし、じゃあこのメモから発想の翼を広げて、俺のセンスで健次の心情を生き生きと描き出すぞ!

講師:それは要らんと言うたじゃろ。⑤何を聞いておったんじゃ?


【おまけ問題】
1. 下線部①の「同じい」は、誤植でないなら音便だと考えられます。元の形は何でしょうか。

2. 下線部②とありますが、なぜ「動揺」したら「心が紛れる」のですか。何が紛れるのですか。

3. 下線部③とありますが、最後に付け加えられたこの1行が、どんな効果を出しているでしょうか。

4. 下線部④とありますが、浅間山荘事件が西暦何年に起きたか調べなさい。ただし出典を明記すること。

5. なぜ講師は下線部⑤のような疑問を持ったのでしょうか。


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