Milindaの書斎

母国語と外国語を行ったり来たりしながら、自分なりに「書くこと」を追求したいと思います。

Composition 84 橋本武:灘の国語教師


橋本武『〈銀の匙〉の国語授業』p50-51

 同時に私は、生徒の記憶に生涯残るような、そんな教材はないかと考え始めていました。というのは、自分がやっていることが生徒諸君にどれくらい受け入れられるのかを考えた時*1に愕然としたことがあるからです。「自分が中学生であった時、どんな授業を受けたんだろう」と思い出してみようとしたんですね。何も浮かんでこない! 先生に対する親しみの気持ちはあっても、どんな教材でどんな授業を受けたか、思い出せない。たったひとつ、『徒然草』を習ったとき、仁和寺のお坊さんの話が面白かったな、それくらいしかない。いま、自分が教室でやっていることは、いくら一生懸命にやっても、生徒の頭には何も残らんのだろうか、と。こんな虚しい話はないですよ。
 そのとき思い出したのが小学校三年生のとき*2の授業。加藤という男の先生でした。この先生は読本を使わないで、そのころ新しく売り出された講談社の講談本を持ってきて、読んで聞かせてくれるんです。講談本にはいろんな英雄豪傑が登場します。真田幸村だとか、忍者の猿飛佐助、霧隠才三、それから三好清海入道とか。塙団右衛門直之などという名前も覚えた。もうわくわくしました。うれしくて楽しくて、国語の時間が好きになっていった。

At that time, I also started wondering whether the textbook that students can remind through life exists in the world or not. I wanted my students to memorize what I taught for a long time. However, looking back at myself, I could hardly recall what the teachers had taught me when I had been a junior high school student! I remembered affectionate feelings to the teachers but had no memory of what teaching materials I had used and how lessons had been. The only impression I retrieved was, "The episode of a Buddhist monk in Ninna-ji Temple was funny. It was cited from Tsurezuregusa." That was all. The moment I realized I had no recollections, I was stricken. I asked in my mind, "No matter how seriously I lecture, will my students forget after all? What a fruitless thing I do!"
During that time, I called back an older memory than junior high school days. When I had been in the third grade, a teacher, whose name is Kato, had taught literature in our class. Mr. Kato had not used readers for the lesson but had read aloud Kodan books to us. Kodan is a style of Japanese storytelling, and Kodan book is a transcript of narration. The stories of Kodan are based on historical facts, especially battles by samurai in the Medieval Ages, but highly dramatized. There are many heroic, active characters in Kodan; Sanada Yukimura, Sarutobi Sasuke, Kirigakure Saizo (above two are famous Ninja), etc. I had been fascinated by them soon. Even more, I had memorized the name of Miyoshi Seikai and Hanawa Danuemon Naoyuki. Having felt delighted and joyful, I had become to love literature lessons by Mr. Kato.

※リーダビリティ・スコアは61。アプリ曰く14歳くらいから読める英文。原文は明らかに話し言葉に寄せた読みやすい文章なのに、あまり高いスコアになりませんでした。日本語の固有名詞がたくさん出てくるからでしょうか。


【雑感】
橋本武先生は、灘中学・高校で教鞭をとっておられた方です。特に「中学生に3年間まるまるかけて1冊の小説を講義する」というユニークな指導法が知られていました。
教材として選ばれたのは中勘助の少年小説『銀の匙』です(念のために言っておくと、荒川弘による漫画のことではありません)。なぜ少年小説をチョイスしたのかというと、自らが小学校の先生に講談本を読んでもらった経験からなのですね。

私が橋本先生のやり方をそのまま真似しようとしても上手くいかないでしょうが、似たような試みをしたいとは考えています。
ただ、教材は何にすればいいんですかね……そもそも「小説」というものが、いまの子にとって教材になるのかどうか。そこから問い直さなければいけない時代なのかもしれません。
YouTuber の話を書き起こしさせて「ほら、ここの修飾は効果的だろ?」とか「この前置きは何のためにあるんだと思う?」とかやったらどうかな(適当)

*1:原文ママ。他の箇所では「とき」と平仮名になっているのに、なぜここだけ漢字になっているのか。それを考えるだけでも国語の問題が作れそうだ。

*2:「とき~とき」と連続するのは気になる。