Milindaの書斎

読んだこと、考えたことなどを書き留めます。外国語はたまに。

Composition 81 アルコール中毒との接し方 中井久夫の文章から

中井久夫コレクション『「思春期を考える」ことについて』p203-204
「慢性アルコール中毒症への一接近法」より

(前略)本人に対しては「アルコールを飲むことが病気ではない。止められないことが病気である。何でもやりだしたら止められなくなるのは病気だ」といい、「どうやら君は酒が苦手なようだね」と述べる。「とんでもない、私は酒が大好きです」と患者は反論するだろうが、「止められなくなるのは苦手の証拠だ。だいたい、飲めない人は好きでも嫌いでもない。無関係なのだ」といい、ちょっと間をおいて「誰でも苦手なものが一つ二つあってもよいのだよ」とつぶやく。
 家族はだいたいこまり果てているのが普通だから、「本人が治るためにはどんなことでもしていただけますか」と問い、「はい」といったら「たいへんやさしくて誰でもできるが実際にやるのは難しいことを一つだけお願いします」という。「何でしょうか」といわれたら「本人に恥をかかせぬことです」と答え、「時には酒をやめて偉かったね、ということばも恥をかかせることになります」といい添える。「どうして?」ときかれたら「薬もほめことばも量がすぎれば毒になりますね」という。実際、患者は「おれはどうせ酒をやめるくらいしかほめられない人間さ」と辱めを感じることが多い。これは必ず引き受ける前にとりつけるべき合意である。

※原文では一続きの段落だが、見やすさのために改行して引用した。

To drink alcohol is normal. However, if you cannot stop drinking by yourself, that is abnormal. Not limited to drinking alcohol, everything is the same case. I used to tell my patients, "You seem to be not good at drinking." They contradicted in most cases, "No way. I like drinking very much," and then, I explained to them, "If you can't stop drinking, that shows you're no good at drinking. Some people who don't drink alcohol are not good at drinking nor poor. They are indifferent to this case." Besides, after a little silence, I used to add, "Everyone has one or two things the one cannot do well. That is usual."
Ordinarily, an alcoholic patient nonpluses his or her family, and they wish the patient to recover. So I used to ask one of the family, 'Would you like to do anything to cure your dear?' If the answer was 'Yes,' I begged, 'Please don't mortify the patient. That is very easy, and everyone can understand what I mean. However, it is tough to do it actually,' and appended, 'If you say to your dear, "I'm proud of you for stopping drinking," that occasionally hurts your dear's pride.' Sometimes, the question returned, 'Why can't I say so? What's wrong?' and I replied, 'Too much medicine can be as spoiling as too little. Maybe too many compliments are the same.' In fact, when family members try to cheer up a patient, quite a few patients are embarrassed and feel, 'After all, I have no virtue except for stopping drinking.' Therefore, before the treatment starts, clinicians must get the agreement that the family maintains the patient's pride.

※リーダビリティ・スコアは74。アプリ曰く12歳くらいから読める英文。


【雑感】
中井久夫さんは著名な精神科医です。また、名文家としても知られています。引用文も簡潔な書き方できちんと要点が押さえられていますので、私がまとめ直す必要は特にないと思います。

それでもあえて引用文のポイントを2つに要約すると

  • 患者本人は「止められないことは苦手なことである」と自覚しよう。

→この定義に従うなら私はネットが苦手だしスマホが苦手だ。いまだに適切なつき合い方は分かっていない……

  • 家族は「褒めることは簡単ではない」と自覚しよう。

→褒めるのってある意味ではマウンティングなんですよね。「こっちが優越していて、お前の出来不出来を判断する立場にある」と言ってることになっちゃうから。褒めた側にそんなつもりがなくても、そう受け取られるかもしれないし。

という感じでしょうか。「俺、酒なんて飲まないし関係ないよ」という方にもヒントになる文章だと思います。