Milindaの書斎

母国語と外国語を行ったり来たりしながら、自分なりに「書くこと」を追求したいと思います。

Composition 75 ROOM.NO.1301#9


新井輝『ROOM.NO.1301#9』p143-144

「実際、正しいことを言ってたかもしれません。でも、それが悪かったんですよね」
 健一は再び、冴子の言葉を思い出す。健一のしたことは非常識だったかもしれないけど、それが綾や蛍子を幸せにした。そう彼女は教えてくれた。
 なのに健一は正しいことを言って、言い続けて、そして綾を悲しませた。不幸にさせた。
「ううん。健ちゃんが悪い訳じゃないよ。私が変なだけだから」
 でも綾はそんな健一を責めたりはしなかった。
「だからですよ。綾さんも、僕も変なのに、僕はただ正しくあろうとした。そんなことする必要もないし、してもしょうがないことだったのに」
 健一に冴子は教えてくれた。
 自分がおかしいと嘆くなら、ちゃんと自分のおかしさで判断して生きるべきだ、と。失敗した時だけ、自分がおかしいからと言うなんて、それこそおかしいことなのだ、と。
「僕は怖かったのかもしれません。自分のおかしさで判断して生きるのが。自分の判断で何か取り返しのつかないことになってしまうことが」
「私だって怖いよ」
 綾の震える手に健一は手を重ねる。それで綾がふっとゆるんだように感じられた。
「でも綾さんは自分の判断でずっと生きてきた。その大切さを僕に示してくれてた」

"Surely, I've come out with the sound argument, but it has hurt you all the time, you know."
Kenichi recalled again what Saeko said. She taught him that he might have been against common sense, but his action has made Aya and Keiko happy.
However, Kenichi had attended to Aya with the normative attitude. He has repeated it and has made her sad. She has been unhappy because of him.
"Never mind. It's not your fault. I'm not unusual. That's the cause of all."
Aya didn't blame Kenichi.
"That's why it's my fault. Though both Aya and I are unusual, I have tried to be just right. There is in the world no need nor meaning to do such a thing."
Once Saeko had said to Kenichi; If you are conscious of your unusuality, don't escape from it. You have to live with your unusuality and evaluate everything by using it. It is the merest unusual that you feel sorrow at your unusuality only when you fail something. That may be just a buck-passing.
"I might have been afraid of judging by my unusuality and living with it. I've been anxious that something irreparable would occur due to my judgment."
"I'm afraid, too."
Kenichi put his palm Aya's trembling hand. She seemed to release her tension just a little.
"Even so, you have lived till now with your own evaluating rule. You have shown me the importance of judging by oneself."

※リーダビリティ・スコアは76。12歳くらいから読める文章、とのこと。


【雑感】
「自分のおかしさで判断して生きる」って滅茶苦茶な言葉に見えますが、名言だと思います。失敗した時だけ「どうせ俺はおかしいから」なんて言いだすのは、ずるい態度なのです。自分がおかしいと本当に分かっているなら、常におかしさと向き合って生きるべきなのでしょう。

主人公がヒロイン(冴子)の言葉を思い出したせいで別のヒロイン(綾)と寝る決心をするとか、まさに普通のラブコメに比べておかしいところなんですけどね……(笑) そこが場面のテーマであり作品全体のテーマでもあるのだと思います。