Milindaの書斎

母国語と外国語を行ったり来たりしながら、自分なりに「書くこと」を追求したいと思います。

【読書】僕らはどこにも開かない


私が若い頃のラノベだけど、未読だったものです(初出は2005年)。中二の魂を取り戻すために(?)チョイスしてみました。自分が書く側に回るためには、そうやって魂を取り戻すのが最良の方法だと思うのです。
注)ネタバレには配慮しておりません。

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)


テーマ、よかった点など

暗そうだけど終わりは明るいよ

タイトルがいかにも暗い感じの作品です。内容もその予想を裏切らず、キレる十代*1の殺人がストーリーの中心に置かれています。

読みながら、私はこう思っていました。「この暗い雰囲気のまま終わっちゃうのかな。でもそうすると中二病をありきたりな形で描いただけの作品になっちゃうぞ。『管理教育のせいで個性が潰されるから若者がキレて~~』とかいう浅いメッセージしか届かないぞ……」

しかし、刊行当時に話題になった作品だけはあります。途中までの雰囲気とはほぼ百八十度異なる、明るいラストが待っていました。
そこまで読み進めた時、私は「どうも自分はこの作品のテーマを取り違えていたようだ」と思いました。作者は陰惨さを売りにしたかったわけではないし、個性と管理教育の対決を描きたかったわけでもないのでしょう。テーマにしたかったのはきっと「他我問題」なのです。

他我問題に挑んだ王道作品

他我問題」とは私の恩師がよく使っていた言葉で、辞書に載るほどの一般的な言葉ではないのかもしれません。
要するに

  • 他人の考えをどう知りうるのか
  • 他人と自分の考えが違うと分かった時にどうすればいいのか
  • 他人の考えが分かったと思っても、それは「自分が想像した他人」に過ぎないではないか。それでいいのか

というような問題全般を指します。さらに要約するなら「自我以外の『我』に対してどうしたらいいのか問題」ということになるでしょうか。

ラストからエピローグに至るまでの会話を見るに、この他我問題が物語の鍵だったことは間違いないでしょう。そう考えると、メインキャラ四人の立ち位置もより深く理解できます。

  • 耕太→他我を完全に真似できると思っている
  • 美紀→「魔法」で他我に影響を与えられると思っている
  • 雅人→他我に興味がない。価値のないものだと思っている
  • 秋山→そもそも他我という概念を理解していない

みな少しずつ他我問題へのスタンスがおかしかったのです。上手いキャラ配置だと思います。上二人は何とか救われましたが、下二人は破滅する結果となってしまいました。

私が考えるに、思春期の悩みはほとんどが他我問題に起因します(例えば友情も恋も広い意味ではどちらも他我問題でしょう)。ですから、この問題をテーマに据えた本作はキワモノや問題作などではなく、むしろ少年向けとしてはきわめて正統派の作品だったのかもしれません。この記事の続きでもああだこうだと書いていますが、読後感が非常によかったことは強調しておきたいと思います。

気になった点など

  • 暗いストーリーから明るめのラストにつながるまでが唐突かも。そこに至るまでのヒントをもうちょっと小出しにしてもよかったのではないか(いわゆる伏線)。でも美紀の最後のパートがヒントといえばヒントか。
  • 山崎の死に何か凄いトリックがあるのかと思った。あそこはもう少しドンデン返しで衝撃を与えてほしかった。まあ、この作品の魅力はそこじゃないし、推理小説として売り出してるわけじゃないからお門違いの要求なのだろうか。
  • 松見って結局、何なの? なんであんなに色んなことが分かるの? 超能力者とかアンドロイドとかじゃなくて「めちゃくちゃ鋭いだけの普通の人間」てことでいいの? 素直に読むとそうなるんだけど、あまり納得はできない。
  • 刊行当時は電撃文庫の問題作とされていたようだが、過激だとは思えなかった。むしろ「思春期の心というよくあるテーマを手堅くまとめた」感じで、問題作より優等生のイメージに近い。私がスレたおじさんになってしまったので、新鮮さを感じられないんですかね…

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)

僕らはどこにも開かない (電撃文庫)

*1:この言い回しで私の年がばれそうだな(笑)