Milindaの書斎

母国語と外国語を行ったり来たりしながら、自分なりに「書くこと」を追求したいと思います。

Composition 69 インゲニウム

木村敏『心の病理を考える』p18

 精神医学でこころの動きの正常・異常を判断する指標になっている「常識」は、実は普通に考えられているような「一般的知識」のことではなく、実生活のなかで周囲の人や事物とつきあってゆく際に、状況の変化に円滑に対応するために必要な「共通感覚」のことであり、その根底にあるのは「インゲニウム」と呼ばれる一種の構想力だった。ところがこの「インゲニウム」とは何のことなのか、これはなかなか分かりにくい。

(原文の注)
ヴィーコが「インゲニウム」ingenium と呼んでいる「構想力」は、普通の意味での想像力(ファンタジア)ではない。想像力が過去の経験の記憶*1をひそかに呼びだしたうえでそれを改変して思い浮かべる作用であるとすれば、インゲニウムは現在目の前にある状況のなかで感覚的所与の背後にひろがる生命的な意味のようなものを直接に見いだす技術である。このことから、この語は「創意工夫」を意味する「インジーニアス」ingenious の語源となった。

It is common sense that psychiatrists use as a measure to judge their patients normal or abnormal. We usually think that 'common sense' means 'general knowledge,' but here it means something underlying and integrating each sense. 'Common sense' in such meaning is necessary for us to get along with the world and respond to the changing circumstances smoothly. There is a kind of imagination ability called 'Ingenium' at the base of that common sense, but it is hard to understand what Ingenium means.

Note: The imagination ability, which Giambattista Vico called 'Ingenium,' is different from generally speaking 'fantasy.' We can define fantasy as a function to recall and reconstruct our memory. On the other hand, Ingenium is a technique to grasp the zoetic context which exists behind the given sensation. It enables us to figure out intuitively the meanings of given conditions in the environment that each subject lives. Therefore, Ingenium became the word origin of 'ingenious,' which means inventive and full of ideas.

(Readability score: 45)


【雑感】
感覚的所与の背後にひろがる生命的な意味――というのはいいフレーズだと思いますが、ちょっと硬すぎます。私なりにもう少し噛み砕いて言うと、感覚的所与とは「実際に見えているもの」のことです。例えば自分が誰かと会話をしているとすると、相手の表情、声のトーン、言葉の辞書的な意味などが感覚的所与に当たります。そして、背後にひろがる生命的な意味とは、会話において相手が「言いたいこと」「伝えたいこと」を指します。
インゲニウム(構想力)に欠けた人間はたとえ感覚的所与が知覚できたとしても、その背後にある意味を掴めません。だから他人との意思疎通が上手くいかず、メンタルヘルスに問題を抱える結果となってしまうのでしょう。もちろん(?)私もそちら側に足を突っ込んだ人間なのですが……

*1:「経験」と「記憶」はどちかを削ってもいいだろう。