Milindaの書斎

母国語と外国語を行ったり来たりしながら、自分なりに「書くこと」を追求したいと思います。

Composition 63 青春流浪


佐伯千秋『青春流浪』p64-65

 やがて私は、冷静になろう――冷静にならなければ――冷静になろう――その言葉で、くりかえし自分の胸を打っていた。わたしは、もう子供ではなかった。子供ではないわたしは、わたしがいまここでたちなおることは、ともかく冷静になることだと、自分にいい聞かせていた。でも、わたしは、おとなにもなりきっていなかった。わたしは、歯をくいしばった顔で歩いていた。涙はこぼさなかった。わたしは、突然の異常な暴力の下に屈服した。でも、ずたずたにひき裂かれただけの自分になるのは、いやだった。風野川べりの道を歩きながら、わたしには、風野川、その両岸にひろがる町並み。夕空。空のかなたにある雪城連山。みな、ぐらぐらとゆれて見えた。見なれた風景が、異様に見えたのではない。見なれた風景は見なれたままであり、それを見ている自分が、三十分前にこの同じ風景を見た自分とは別人になってしまっている――それが、わたしをぐらぐらさせた。三十分――つかのまの時のようにすぎる時間でもあるのに、わたしは、魔の時のような三十分の中を、通りぬけてここにいるのだ。その時間の前には、わたしは、もう戻れない。――

 わが家の、わたしの部屋にいる。
 あらしは、すぎた。あらしが吹きすぎたあとの荒野を、わたしは凝視しようとしていた。

By and by, I tried to calm down. I talked to myself repeatedly, "Cool off, I must cool off, cool off." I was no longer a child, so I persuaded myself to recover my mind. I thought what an adult should do was to steady. However, I had not been matured fully. I gritted my teeth and managed to keep walking. I never shed a tear. I had undergone the sudden abnormal violence, but it was unacceptable that I was only hacked my pride to pieces. Walking along Kazano River, I felt like everything was shaking ― the river, the townscape on either bank, the twilight sky, and the Yukishiro mountain ranges seen beyond the sky. In fact, those familiar sights didn't look queer. They existed as usual. It was me that changed. I had already become a wholly different person from me who had seen the same view thirty minutes ago ― this awareness stirred me. Thirty minutes are not very long and sometimes pass for a moment, but the thirty minutes that I had experienced were crucial. It was a kind of nightmare, and there was no mending. I could never go back before it had occurred.

When I realized I was in my room.
A tempest had already gone through. I tried to gaze at the wasteland that the gale had passed on.

(Readability score: 74)


【雑感】
奥付には昭和51年初版とあります。私の生まれる前ですから、さすがにリアルタイムで読んだわけではありません。
でもなぜか実家の近くの本屋さんにはこの本が置いてあって(古本と新刊が半々くらいの店でした)高校生の時に買って読みました。

当たり前のことですが、一口に若者向け小説といっても時代や作家によって書き方がまったく違います。『青春流浪』もコバルト文庫ですからいま風に言うとラノベなのですが、私が10代のころの流行作品とは趣をかなり異にしていました。
私が知識ではなく体験として世代の違いを知ったのは『青春流浪』を読んだ時だったのかもしれません。