Milindaの書斎

読んだこと、考えたことなどを書き留めます。外国語はたまに。

Composition 55 ROOM.NO.1301 #4


新井輝『ROOM.NO.1301 #4』p69-71 より

「ホタルは友達が欲しかったんじゃないですかね?」
「友達? 私と蛍子ちゃんが?」
「うーん。まあ二人の性格を考えるとちょっと難しい気もしますけど、ホタルって絵のことはすごく一生懸命だから、それくらい一生懸命な人間が側に欲しかったんじゃないですかね。本当、適当な想像でしかないですけど」
「……友達か」
 綾はそれからしばらく一人で何かを考える様子を見せた。でもそれがなんなのかは言わず、健一の方を見る。
「私ね、蛍子ちゃんには幸せになって欲しいってずっと思ってた。悪いことしちゃったんだろうなって感じてたし、それになんだろう。いつもなんだか怒ってるみたいだったからかな」
「そういうところありますよね」
「だから健ちゃんが蛍子ちゃんの弟だって知った時は、ちょっと嬉しかったんだ。健ちゃんなら蛍子ちゃんのことも幸せにしてくれるんじゃないかなって……って、今、話すことじゃなかったかな」
「……微妙ですね」
 健一はさすがに苦笑いするしかなかった。自分だってそう出来てたらなと思う。
 蛍子には幸せになって欲しい。その思いは皆、一緒だったはずなのに現実はそれとは違う方向へと向かってしまった。
「私っていつもそうなんだよね。健ちゃんとだとけっこう上手く話せてた気がするんだけど、やっぱりちゃんと話そうとするとこんな感じなんだな」
 綾はそしてちょっと元気の無さそうな声を出す。
「どうしてこんなに苦手なのかな? 金工みたいに思った通りにビキビキと決まってくれないかなって思ってるのに*1
「相手あってのことですからね。自分の思い通りにばかりはいきませんよ」
 そんなことを健一は言ってみるが、自分でもそんな偉そうなことは言えないよなと思う。別に蛍子のことだけじゃない。自分が本当に人と上手くやれているかと言えば、答えはノーだった。それっぽくその場を取り繕ってはいるが、核心に触れるのを自分はいつも避けているような気がする。
「……なんでですかね?」
「え? 何が?」
「思い出してみると、僕は綾さんとが一番、上手く話せてるかもしれないです」
「そうなの? 冴ちゃんじゃなくて?」
「有馬さんとは……今もちゃんと話せてないという気がします。お互い、他の人には言えない様なことを話した気もしますけど、でも……それだけのような気が*2
「そうなんだ。それはちょっと意外だな」
 そう言って綾が嬉しそうに笑う。

"I guess Hotaru wanted you to become her friend," Kenichi said. Hotaru is the nickname of his sister, Keiko.
"Friend? With me?"
"Yes. Though you and Hotaru seem to be incompatible...At that time, Hotaru had been drawing pictures seriously. So I think she wanted someone who was absorbed in the art as well as she. Of course, what I say is just an unfounded conjecture, but..."
"...Kind of got it."
Aya was thinking something for a while, but she didn't show what she thought. Instead, she looked at Kenichi and started talking about another topic.
"I wanted Keiko to become happy. I had been hoping so for a long time. That was why her masterpiece hadn't been appreciated because of me. I had felt sorry for it profoundly. Besides, what can I say...she always looked angry in those days. I prayed that she was released from her angry."
"Agree with you. Hotaru often looks severe."
"So, when I knew you are Keiko's brother, I'm glad. I expected you might make her happy...huh, don't you want to remember such a thing now?"
"...I'm afraid so."
All Kenichi could do was to make a wry smile. He wished he had made Keiko happy.
Both Kenichi and Aya wanted that Keiko would be satisfied. They had the same desire, but destiny changed its course.
"I usually do like that. That's just me. I have felt I could talk with you well, but it was only my misunderstanding. I can't converse even with you. " Aya's tone sounded depressed a little. "Why am I so poor at conversation? I wish I could structure my speech like metalworking."
"It depends on your partner that your conversation succeeds or not. It doesn't go well as you want." Kenichi answered so, but he realized he also couldn't talk with others well. He had failed to get along with Keiko, and that's not all. Have I been doing well with others? Kenichi asked himself. The answer was No. He felt he had been keeping up his appearance but had not committed others' hearts.
"...Why you?" muttered Kenichi.
"Huh? What are you saying?"
"Remembering recent days, I wonder if you were my best partner in conversation, Aya."
"Really? I think Saeko is your best."
"...I'm afraid I have not already talked well with Saeko. Surely, I confided to her what I can't tell other people. She did it to me as well. Then, was it the usual communication? Saeko is my roommate, but I think she isn't my lover nor my friend."
"I see. That's surprising a little for me." Aya smiled gleefully.

(Readability score: 81)

【雑感】
綾が「健ちゃん」と言うのは you、「蛍子ちゃん」と言うのは Keiko、she と素直に訳しました。「-chan」も考えたんですが、私にはまだ使いこなせないだろうな、と判断したのです。

なぜこの場面をチョイスしたかというと、主人公の絹川健一と彼を取り巻く女性たちの関係が端的に表れていると思ったからです。
健一にとって、この時点で最も会話が上手くいく相手は綾、最も頻繁にセックスする相手は冴子、恋している相手は蛍子(実姉なんだけど…)、クラス公認の彼女は千夜子(上の場面では名前が出ていないけど)、ということになるのでしょう。それらの役割を1人の人間が兼ねてくれれば万々歳なのでしょうが、そう上手くいかないところに物語のカギがあるわけです。
『ROOM.NO.1301』はライトノベルの中では真面目な作品で、「好きって何だろう?」「恋って何だろう?」という問いをテーマにしています。たくさんのヒロインが登場するのはそれを描ききるためであって、別に読者のハーレム願望をお手軽に満たすためではないのです。ただ、お色気シーンは割と多い。

*1:綾は金属加工のアーティストである。蛍子は先の会話に出たように画家。

*2:英文では「それが普通のコミュニケーションと言えますか? 冴子は同居人だけど恋人でも友達でもありません」という風に意訳してみたが、ちょっと言葉が強すぎたかな。健一はそんなに冷たい性格じゃないです。