Milindaの書斎

母国語と外国語を行ったり来たりしながら、自分なりに「書くこと」を追求したいと思います。

Compositon 40 ロクメンダイス、

はい、また九郎だよ。またロクメンだよ。Compositon 16 には「1つの小説を継続的に訳し続けるわけではない」と書いたけど、たまには重複することもあるさ。

「ここ、景色良いね」
 そうだろうか、とぼくは手すりに歩み寄った。
 乱立するビルが、自分勝手にお互いをネオンで浮かび上がらせている。昼間の排気ガスが沈殿して、まばらに行き交う車のヘッドライトは失敗した仕掛け花火みたいに見えた。
 ぜんぜん、特別でもなんでもない景色だった。特別でもなんでもないテラスだった。
「チェリー*1。もう遅いから、今日は休んだ方がいいよ」
「……うん」
 そう言いながら、チェリーは長い間、なんでもない景色を眺めていた。
 そうか、とぼくは気づいてしまう。チェリーは感動できない。してはいけない。
 このつまらない景色はチェリーにとって、ぎりぎりで許される夜景だった。
 ぼくも部屋に戻ることを止める。ぎりぎりの夜景の中に見所を探し出してあげたかった。
 ぼくたちは探す。このなんでもない景色を、せめて価値付けするささやかな何かを。
 でも見つけてはいけない。見つかればチェリーは感動し、周囲に心辺警護が伝播する*2
 最初から何一つ埋まっていない宝の地図を、あてもなく探すことの無意味さだけが許されているんだ。
「チェリー、明日また見れば良い。風邪ひいちゃうよ?」
 ぼくは残酷だったかもしれない――つまらない夜景に見どころさえ見つけてあげられなかった。
 ぼくは知った。ぼくは他人に対して何一つしてあげられない、無意味の少年なのだと。
 ぼくたちの共同生活は、タイトロープみたいに細い細い道であるらしい。
 ふと見つけた窓ガラスに映るぼくは――綱渡りに脅えている道化師に似ていた。

中村九郎『ロクメンダイス、』p83-84

"Great view here," said Cherry.
Is it so good? I went up to the handrail, wondering.
The jumbled buildings were selfishly lighting up each other by neon signs. A few cars were coming and going. The exhaust gas was stagnating on the road, and the visibility had gotten worse. That was why the car's headlights looked like misfired fireworks.
It was far from unusual sight. We were on the usual terrace.
"Cherry, It's late at night. We should go to bed."
"……Yes."
Cherry answered so but stayed there. She had been staring at the ordinary scenery.
Ah, I see. Cherry can't have any strong emotions. To be precise, she mustn't.
It is this dull view that she is just barely allowed to watch.
I stopped returning to my room. I wanted to find worth for Cherry in the bare night view.
We looked for something tiny which at least added value to this boring scenery.
However, we mustn't have discovered such a thing. If we find out it, Cherry's Heart Guardian disturbed this world.
We had only meaninglessness from the beginning. All we could do was to seek Treasure Map, which was just a blank sheet.
"Cherry, you can come here again tomorrow. Go back to your room. I'm afraid you get a cold."
I might have been cruel ― I couldn't uncover any good points in this tiresome night view.
I learned that I was meaningless to exist. I could do nothing for others.
Our living together seemed to be a tightrope. It was hard for me to choose the correct option.
I looked at a window glass by chance ― it reflected a fool scared of rope walking.

【雑感】
アプリによる readablity score (読みやすさの評価)が85点を超えました。嬉しいです。でもそれは私の英語が上手くなったからというより、原文が簡潔な文章だったからだと思います*3
今回に限らないことですが、自分で書いた英作文よりも、プロの小説を訳したもののほうがアプリから高く評価されます。やっぱり、それでご飯を食べている人の文章はアマチュアに比べればめちゃくちゃ上手いのでしょう。外国語に訳してさえ、人間ではないソフトにさえ、その違いが分かるということなのかもしれません。
中村九郎は一般的にはあまり上手くない作家とされていて、ウィキペディアにも「非常に癖のある文体が有名」と書かれてしまうほどなのですが、それでも素人とは天と地ほどの差があるようです。

*1:チェリーはヒロインのあだ名。本名は「智恵理」という。

*2:「心」辺警護って何だよ、「身」辺じゃないの? と思った方は是非とも本編を読んでみてください。

*3:というか、アプリの評価をよく読んだら「11歳くらいの子にも理解できる英文です」って書いてあった(笑) 褒められているのか分からない。リーダビリティが高ければいいというものでもないのかな。