Milindaの書斎

読んだこと、考えたことなどを書き留めます。外国語はたまに。

Composition 27 中村名文

 これまでに名文を書いた人なんてひとりもいない。文章を書いたらそれは名文になっていた、という人がいるだけである。こういう言い方をすると、やや神がかって見えるかもしれない。現代の文章作法としてはおよそふさわしくない前近代的な見方だと笑われるかもしれない。私はもう年をとったのだろうか。青年期から壮年期に進むにつれて、錯覚かもしれないが、文章というものがほんの少し判りかけてきたように感じる。文章の書き方が判ってきたのではない。書けないことが判ってきたのだ。文章というものの難しさが見えてきたような気がするのである。その気になればどんな文章だって書けると考えるのは青年期にありがちの思いあがりでしかないことが、ようやく実感として納得がいくようになったのである。
 ある名文例を分解して、そこにある名詞や動詞が、その選択も配置も適切で、そのことがいかに効果をあげているか、といったような名文性の表現解説はある程度可能だろう。しかし、そこが説明できたからといって、その表現がなぜ実現したかが判るわけではない。

中村明『名文』p84-85

No one wrote excellent prose intentionally in the history of literature. Writers can only write in their own style, and his or her composition evaluated as a result. Do you have the impression that I deify writers and writing process? You might deride me as the man with the premodern method. I wonder if I have already gotten too old. At least, my youth ended, and I reached middle age. With advancing years, I feel like understanding just a little what writing is. I have not grasped how to write yet, but I noticed there is no knack in writing. In the long run, I have learned only the difficulty of writing. It is just hubris to think that you can make prose in whatever style. Such overconfidence is usual in the youth. I accepted at last that I also had been overconfident when I was young.
Scholars can analyze some expressions of a classic. They can explain what word is chosen by the author, how suitable it is in the context, and how effective it is to impress the readers. However, they cannot unravel the mystery of why the authors can create such expressions.


【雑感】
『名文』は国語学者・中村明さんの著書です。似たようなタイトルの本がたくさんあると思うので、私はこの本を「中村名文」と呼んでいます。
同書の前半部では中村さんなりに名文の定義をあれこれと考えているのですが、まあ、はっきり言うと主張が散漫で、何が言いたいのか分かりにくい文章になっています。こういう呼び方は語弊があるかもしれませんが、悪い意味で「文系」的な文章でしょう。英訳していても「このセンテンスは前のとどう繋がってんだ?」「ここ同じこと繰り返してるだけじゃね?」と悩んでしまう箇所がありました。センテンスを分けたり足したりしたせいで、かえって意味不明な英文になってしまったかも。
じゃあつまらない本なのかと言われれば、そうでもないのが難しいところです。読んでる間は面白いんですよね。だから10年くらい前の私は中村名文を愛読していたし、いまでも影響が残っていると思います。でも「全体として何を伝えてもらったのか」はふわっとしている感じなんですよね。確かに楽しいと思って引き込まれていたはずなのに。何なんですかね、この現象は……。
ちなみに中村明さんはあの『感情表現辞典』を作った人です。こう書けば中村さんの凄さが(通じる人には)通じるのではないでしょうか。同時に、コレクターとしては凄くても思考をまとめるのは苦手、という氏の特質も感じ取っていただけるのではないかと思います。